
これは私が美大進学を目指していた時に出会った仲間たちとのお話です。
美大進学を目指して向かった予備校で
高校3年生の私は、都内の美術大学への進学を第一志望として受験の準備をしていました。
美大合格を目標とする受験生のほとんどは、美大受験専門の予備校に通います。
しかし私は田舎に住んでいたため、通える範囲にこのような予備校がなく、夏休みの期間を利用して短期間東京の予備校へ通うことにしました。
そこには同じ年代の美大進学を目指す若者たちが沢山いました。
同じ高校3年生の子もいましたが、二浪、三浪も珍しくありません。
田舎から出てきて、はじめて東京滞在をする私は右も左も分からないことだらけ。
さらに周りの受験生たちの実力に圧倒され、初日から自信を完全に喪失しました。
一枚の作品が完成すると生徒たちの作品をずらっと並べ、講師による講評がはじまります。
私にとっては自分の拙い作品が周りの作品と比べられ、恐怖の時間でしかありませんでした。
ライバルだと怯えた人々は、実は仲間だった
講習がはじまってから数日経ち、自分の作品に対する講師からの厳しい意見を受け、ひどく落ち込んでいると、「それは期待されている証拠だよ」と隣の受験生から励ましの言葉をかけてもらいました。
この言葉のおかげて心が軽くなったことを覚えています。
さらに他の受験生は、私が地方出身で東京にはじめて来たことを知ると、おすすめの画材店や、食品が安く買えるスーパーマーケットの情報などを教えてくれました。
芸術家を志す受験生たちは個性が強いメンバーばかりではありましたが、みんな親切で優しさを持ち合わせていました。
美大受験は、どの大学も数十人という限られた募集人数に対して多くの人が志願するため、倍率は10倍をこえることも珍しくありません。
予備校生たちは闘争心を燃やすライバル同士かと勝手に想像していましたが、同じ目標に挑戦する仲間だったのです。
私は夏期講習のあと、センター試験後の直前講習にも参加し、彼らと再会しさらに交流を深めました。
進路は分かれても、良き戦友であることは変わりない
受験の結果、私は志望校に合格することができました。
予備校では、希望の大学に合格した人、私立美大に合格しても東京芸大を諦めきれず再び浪人する人、教員養成系の美術専攻へ進学する人など、彼らの進路はさまざまでした。
大学への進学、卒業を経ても、東京の美大受験予備校で出会った彼らとは、今でも連絡を取り合う仲です。
予備校で出会ったかけがえのない友人たちは、高校や大学で出会った友達とは一味違う、戦友という感じがします。
美術という分野は、作品制作にあたって孤独感を感じることも多いですが、あのとき予備校で励ましあった体験が、今でも心の支えとなっていることは確かです。