私が仕事で苦境に立たされた時に応援してくれた名言、それはアメリカの初代大統領ジョージ・ワシントンの「正直は常に最善の策である」という言葉でした。
アプリ開発の営業
もう20年以上も前になるのですが、社会人になってから営業一筋で働いてきました。
当時は大手法人企業を担当しており、業務システムのアプリケーションの受託開発の営業を担当していたのです。
当時も競合他社との競争が非常に激しく、価格競争に巻き込まれることも少なくありませんでした。
私が手掛けていた仕事はお客様から業務の問題点をヒアリングして、ゼロから開発する業務アプリ。
今のようにパッケージソフトとは異なり、カスタムメイドのアプリと言ってもいいかもしれません。
それだけに開発力と価格がベンダー決定要因になるわけです。
大きなコンペ
ある新規のお客様の提案コンペでの案件を手掛けた時のことでした。
この案件が受注すると数年間は大きな販売が見込まれるということもあり、私どもの会社だけでなく、他のライバルベンダーも数社、営業攻勢をかけてきていました。
しかし、私はこの案件を3年も営業しており、他のライバルベンダーは後から営業活動をしてきたため、他者に取られるわけにはいきません。
とはいうものの、私が勤める会社では一般的に他のベンダーと比べて金額が決して安いわけではなかったのです。
そのため、他ベンダーは安価な価格で攻めてくる戦法ばかり。
お客様の担当者からは非常に信頼されていたものの、最終的には価格的な要素も契約の決定要因となります。
ここで、お客様の要望仕様を一部削ってでもコストを抑えることにするかどうかが社内で懸案になりました。
他ベンダーは後発のため先方の仕様を100%満足できるわけではありません。
価格を安くするために、ある程度は割り切った仕様となるアプリがほとんどでした。
それに張り合って私の会社のアプリでも仕様を一部削ったとしても、他ベンダーには到底及ばない金額。
もうこのままでは3年間の営業努力が水の泡になると思いました。
方針を後押ししてくれた名言
この時、私の背中を押してくれたのが、ワシントンの言葉だったのです。
営業中に昼食で立ち寄った喫茶店で、置いてある雑誌を取って何気なく眺めていると、
「正直は常に最善の策である」
という言葉が掲載されていました。
最初は読み飛ばそうとしたのですが、どうしても心の中に刺さってくる言葉。
この名言で感じたことは、お客様の業務アプリのコストを抑えるために、先方の要望の一部を削るということは絶対にしてはいけないということ。
長年、担当者との議論・ヒアリングでまとめてきた課題や要望仕様を積み重ねてきたのです。
忙しい中、時間を作っていただき、お客様が相談してくれたことを無視するようなことはできないと思いました。
そのため当社でこのアプリ開発をする上で必要なコストを正直にお客様に提示することになったのです。
しかし、この時の判断は間違っていませんでした。
ライバルベンダーを含めて、一番コストが高かったのですが、最終的には当社で受注することができました。
その要因は時間をかけてお客様と向き合っていた私どもの真摯な姿勢を見てくれただけでなく、当社を完全に信頼していただいたからです。
もし、ワシントンの名言に出会っていなければ、恐らくあの時の仕事はなかったかもしれません。